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過剰なコレステロールが認知症のリスクを高めるということが最近の研究で解かってきました。食生活の改善、運動でコレステロールの適切な管理が求められています。

日本であまり知られていない認知症におけるコレステロールの影響

コレステロールの管理は血管の健康のためにと考える人が殆どです。しかし、実はもう一つ管理するための理由があります。それは、「脳の健康」です。2011年から2017年にかけて、中国天津大学の研究チームが認知症患者117人と健康な人117人を対象にコレステロール値と認知症の発症率の相関関係を分析しました。その結果、総コレステロール値、および悪玉コレステロール(LDL-C)値が高いほど、認知症の発症率が高いということが解かりました。

これに対して、善玉コレステロール(HDL-C)の場合は、認知症患者の平均値は54mg/dLで、健康な人の平均値60mg/dLと比較して6mg/dLも低いということが解かりました。

アルツハイマー病や認知症の原因としては、毒性のあるタンパク質「β-アミロイド」というものが指摘されています。そこで同研究チームは、HDL-Cが認知症を引き起こすβ-アミロイドの脳への蓄積を防ぐため、認知症の発症を防ぐのではと述べています。

LDLはβ-アミロイド産生に関わる?!

アメリカのカリフォルニア大学、アルツハイマー病センターのブルース・リード博士によると、悪玉コレステロール(LDL-C)が高く、善玉コレステロール(HDL-C)が低いと、アルツハイマー病や認知症を患うリスクが高くなるというのです。実はLDL-Cは、脳の中でβ-アミロイドが多く作られる触媒の役割を果たすことが明らかになったのです※1

イギリスのケンブリッジ大学とスウェーデンのルンド大学の共同研究グループが、アルツハイマー病を患う患者の脳細胞膜を調べたところ、β-アミロイドの塊が形成されていることを確認しました。β-アミロイドは、脳の神経細胞に蓄積されてプラーク(塊)を形成しながら、徐々に神経細胞を殺していくといいますから怖いですね。この研究チームは、コレステロールの存在でβ-アミロイドの塊が20倍も早く生じると推定しています※2

HDLコレステロールは、軽度認知障害・認知症のリスク低下に関連

日本人の40~59歳の約1万2千人のうち、1995-96年の健診データがあり、20年後に「こころの検診」を受けた1,114人のコホート研究があります※3。そのデータにもとづいて、中年期のHDLコレステロールが、その後高齢期になった時の軽度認知障害・認知症との関連を調べました。
その結果、なんと中年期にHDLが比較的高かった人達は、そうでない人に比べて軽度認知障害と認知症のリスクがひくくなるという結果が出たのです※4。これは言い換えると、LDLコレステロールとHDLコレステロールのバランス(LDL/HDL比)が高いと、経度認知障害、認知症になるリスクが高くなるということを示しています。

加齢に伴いHDL値が低くなる傾向があります。LDL値を下げHDL値を増やすには

加齢とともにHDL-C値が低くなってくる傾向があります。特に女性はその傾向が観られます。韓国の健康検診統計年報によると、50代に低HDLコレステロール血症の診断を受けた男性の割合は19.5%だったのに対し、女性は28.7%でした。60代の場合、男性の割合は22.9%、女性は41.4%でその差は顕著でした。70代では、男性25.7%、女性48.1%、80代は、男性26%に対し、女性は50.4%でした※5
中年以降の女性のHDL-Cのレベルが悪くなる大きな理由は、更年期障害や、閉経により、女性ホルモンであるエストロゲンのレベルが急激に低下するためです。更年期のさまざまな血管疾患のリスクが高くなることも、エストロゲンの数値が低くなることと関係しています。
しかし、女性も男性も共通して年齢が上がるにつれ、HDL-Cが低くなりますので、安定したエクササイズ、よい食生活に切り替えてコレステロールを管理することがとても重要と言えます。

よい食習慣、エクササイズの習慣を取り入れましょう

脂質異常症と診断される程、総コレステロール値が悪いと、病院で薬物治療を開始しなければなりません。食習慣の変更、エクササイズを取り入れるなど生活習慣の改善が必要です。フルクリームのケーキ、スナック、天ぷらなどのトランス脂肪酸の多い食品は避けるようにしましょう。トランス脂肪酸の高い食品は、そうでない食品に比べて認知症の発症リスクが50%高くなるという研究データがあります。
また、炭水化物の摂り過ぎは避けて下さい。エネルギーとして消費されなかった炭水化物は、トリグリセリド(中性脂肪)となり、HDL-Cの分解を促進してしまいます。エクササイズは週に5日、一度に30分以上が理想です。このエクササイズを続けると、血管内の脂質分解酵素が活発になり、その結果、HDL-Cの値も高くなります。

仮にコレステロール値を下げすぎた場合、それはあなたの認知機能を損なう可能性があります

仮にと題名に書いたこととして、ここでの心配はあまり深刻になる必要はないかも知れません。というのも通常の生活ではここで述べている低いコレステロール値というのは、殆どありえないというのが現状です。

ある研究※6では、LDLコレステロールが非常に低い場合でも、「ステロイドホルモンと胆汁酸産生の重要な能力が維持されている」ことがわかりました。これは良いことです。ただし、LDLコレステロールのレベルが非常に低いと、うつ病や不安症(ビタミンA産生の低下に関連している可能性があります)、癌※7、また妊娠中にコレステロールが低い場合は早産または低出生体重のリスクが高くなる可能性があることもわかりました※8。ただし、これらのデータにはさらに追従研究が必要です。 通常、コレステロール値が低いことはまずありませんし、それが慢性疾患に関連していることを示唆する証拠は不十分です。

体のコレステロールの約25%は脳にあります。コレステロールは膜の必須成分であり、神経伝達物質の伝達に重要な役割を果たしています。コレステロールの欠如は、脳細胞間のコミュニケーションの問題を引き起こし、認知と記憶に損傷を与える可能性があります。

つまり、コレステロール値、特にLDL-Cをどこまでも下げればよいということではありません。それよりもLDLコレステロールとHDLコレステロールのバランス(LDL/HDL比)を健康レベルの範囲内でできるだけ低く、最良のバランスで維持することが、大変重要であることを覚えておいてください。

 

 

参照
※1  Low HDL and High LDL Serum Cholesterol Are Associated With Cerebral Amyloidosis
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4083819/

 ※2  Brain cholesterol associated with increased risk of Alzheimer’s disease
https://www.cam.ac.uk/research/news/brain-cholesterol-associated-with-increased-risk-of-alzheimers-disease

※3  血中HDLと経度認知障害・認知症との関連

https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8235.html

※4  Svensson et al. The association between midlife serum high-density lipoprotein and mild cognitive impairment and dementia after 19 years of follow-up. Transl Psychiatry. 2019 Jan 18;9(1):26.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30659169

※5  치매 위험 줄여주는 HDL 높이려면? 꾸준한 운동·식습관 개선이 답
http://health.chosun.com/site/data/html_dir/2020/01/07/2020010702155.html

 ※6  Olsson AG et al. J Intern Med. 2017 Jun;281(6):534-553.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28295777

※7  Low LDL cholesterol is related to cancer risk

https://www.sciencedaily.com/releases/2012/03/120326113713.htm

※8  heathline. Can My Cholesterol Be Too Low?

https://www.healthline.com/health/cholesterol-can-it-be-too-low